「ナビックの役割」

 SONYの出井伸之会長の著書[ONとOFF]という本を読んでいる。グローバル企業の社長の視点、交際範囲の広さが国際的であれば行動範囲も国際的であるのはまず当然として、グローバル企業の社長というものがどのようなものかを垣間見ることができて、大変興味深い。自分と比べるまでもないが「企業の役割、立場というものが違う」と、私とは天と地ほどの違いがあることを感じる。
 ナビックという会社を自分で興したが、我が社の役割とは何だろう。私自身はコンピュータのソフト業界に身を置いて30年近くになるが、技術者についていえば、今と昔で業界そのものはそれほど大きく変化していないように思う。
 例えば、技術者の派遣は今も昔も同じ問題を抱えている。30歳定年説、35歳定年説があるということだ。この点については、新卒で入ってくるべき優秀な人材の足止めになっているのではないかと思っている。今、若い技術者が育っているが、彼らの将来、10年後、20年後が果たして十分に夢を持てるものといえるのだろうか。ややもすると、技術者の依頼は、若い年齢に偏ってしまう。
 つまりテクノロジーが急激に変化している中で、そのハードを動かすソフトを作る仕事を我々は担っているのだが、ソフトを作る技術や環境が目まぐるしく変わるのだから、それについていけるのは勘や経験だけではなく、新しいアーキテクチャーをそのまま素直に受け入れられるものが求められる。その素直さというのは若い人ほど顕著だということなのだ。
 今のコンピュータの基本的なアーキテクチャーはノイマン型といわれるが、それは昔から変わっていない。つまりコンピュータの動作原理---プログラムをメモリにストアードしてシーケンスに動かすという原理は何も変わっていない。それ故に私が仕事にありつけるのだ。もし原理が変われば完全にお手上げになって、求人誌を見て職を探す羽目になってしまう。
 変わらない原理の中で、何故30歳定年説、35歳定年説なのか。その背景にあるのは、ソフトを作るツールなり言語なり、世界のどこかで開発されたものが次々と出てくること、インターネットなどのネットワークを利用すればより速く知れ渡ることになること、もっと決定的なのは、コンピュータが世の中に普及してパソコンなどが手軽に使える、それが当たり前の世界に育った人たちが世の中を占めてきたことだろう。
 プロの技術者とは何かというと、自分たちの知識や経験を通して、相手のビジネスに影響を与えられる人間ということなのだが、40代に入っていったとき、どれだけのものを相手に提供でき、ビジネスに影響を与えられるのだろうか。過去の技術では提供できるものが無くなってくるのだ。あまりにも急激に変化する技術のために。しかし、これだけが30歳定年説、35歳定年説を裏付けるものではないが。
 結局日本人社会の特徴なのかもしれないが、派遣先の上司、あるいは一緒にやる仲間が、派遣されてくる人に比べて年齢が低かったらどうだろう、と考えると判り易いかもしれない。つまり、30歳定年説、35歳定年説だとかは、30歳や35歳の係長、課長の存在を踏まえて生じてくる説なのである。彼らより年上の人が派遣でやってきたら、管理者から見ればやりづらいものもあるのだろう。おまけになんでも「はい」といえる年齢ではないから尚更なのだ。
 ナビックの役割は、この定年を延ばし、10年後、20年後に不安を感じさせない企業の有り方をこの業界で示すことだ、と真剣に考えている。