「将棋の世界」


  プロ棋士の世界とはどんなものなのか。「決断力」(角川書店 ; ISBN: 4047100080)羽生善治氏が書いた本があったので読んでみた。
知らなかったが、名人というのは1612年、徳川家康が実権を振るっている頃誕生したと書いてある。そして400年ぐらいの間に「名人」の地位を得た人は僅かに25人というから、名人といわれる人の凄さがわかる。そしてその中に羽生善治氏がいるわけだが、若干23歳で名人を獲得して今35歳、そんな人が書いた本だ。何を思い将棋を指しているのかを読んでみた。その本の目次を見ると、
勝機は誰にでもある/直感は7割は正しい/勝負に生かす集中力/選ぶ情報、捨てる情報/才能とは継続できる情熱である/・・・
こんな文字が並んでいる。本の中で「勝つ秘訣は?」の質問に、「勝負には精神力、特に追い込まれたときの精神力、これが大きく左右する」と答えている。また、「今の将棋の戦術面での進歩は、序盤でさまざまな形が研究され分類されてきたこと、有利な局面を勝ちに結びつけていく技術が進んだことだろう。有利になった後は平坦な道を選んで早くゴールに入ればいいという考え方」だそうだ。面白いのは、「今の将棋では、将棋がわかりやすい局面に入ったら絶対に追いつかない」と言っていること。羽生棋士が書いているから面白い。「勝負どころでは、あまりごちゃごちゃ考えすぎないことも大切である」とも書いている。
 また、一般社会についても言えることとして、「固定観念に縛られたり、昔からの生き方やいきさつにとらわれたりせずに、物事を簡単に、単純に考えるということだ。・・・簡単に、単純に考えることは、複雑な局面に立ち会ったり、物事を推し進めたりするときの合言葉になると思う。そして、そう考えることから可能性が広がるのは、どの世界も同じだろう」と書いている。今の世の中だけに、なかなか先を読むのは難しい。簡単に、単純に考えてみるのはいいが、何をどう簡単に、単純に考えればいいのだろうか。
 面白いと思ったのは「将棋の世界もまた日進月歩だ。最先端の将棋は変化し、進歩し続けている」と言っていることだ。私の知らない世界だが、将棋の世界がこんなにも激しく変化しているとは想像もしなかった。
 そして将棋の世界を急激に変化させたのはコンピュータだと書いてある。「この20年の間でコンピュータの出現と合わせて将棋そのものが急激に進化した」と言っている。またこの本では「情報化」という言葉を多用している。例えば「今は情報化時代で、この定跡がよく整備されているために、戦術や戦型の知識を得るのが本当に簡単になった」ということや、「その日の戦いはもう翌日には知れ渡っていて研究されているので、次回も同じような戦術だと読まれてしまう」ということを書いている。将棋の世界にも情報化については当たり前のように進んでいるのだ。やはりそこにはインターネットだとかパソコンがあるからだ。
 パソコン、インターネットというのは情報を簡単に広めてしまえる。プロ棋士も大変な時代に生きているのだということがこの本でわかった。また将棋の指し手の可能性について、カーネギーメロン大学の金出武雄先生のデータを引用し「10の30乗ぐらいあり、地球上の空気に含まれる分子の数よりも多い」とも書いていた。そう見ると将棋の世界も奥が深い。
 私はよく、周りの変化が激しいから自分たちの仕事は難しいと言うことが多いのだが、同じく変化の激しい将棋の世界であの天才ともいえる羽生棋士ですら、日々研究し努力しなければ務まらないプロの世界に比べたら、私がやっていないことがあまりにも多すぎることを、この「決断力」という本は教えてくれた。