「100キロウォーク」


  100キロウォークの話をしてみたい。「私100キロ歩くんですよ」と言ったときの相手の反応はさまざまだが、「信じられない」、「よくそんなに歩けるね」、「歩けるんですか」、「すごい」、「どこで歩くの」といった声が聞かれる。しかし「参加したい」と言った人はなかなかいない。私のやっていることは相手にとってそれほど興味のないことなのかもしれない。
 私が100キロウォークに出てみないかという誘いを受けたのは3年前のこと。私より8歳ほど年上の経営者の方に声を掛けられたのだった。私自身、誘われたら都合さえつけばどこにでも出掛けてゆくタイプだから、二つ返事で参加したのがきっかけである。
 最初は700人ぐらいの参加の大会であったが、参加者は年々増えている。去年は770人ぐらいの参加者がいた。参加してみて判るが、100キロは決して楽ではない。完歩率が49%だから半数の人はリタイヤしてしまうのだ。一番頑張るのが50代、60代の参加者である。女性の参加もあるが、参加してくる女性は一言で言えば「強い」という印象を受ける。特に40代以降の人に言えるのだが、なんであんなに強いのかと思うくらい、ひたすら歩き続けられるのだ。本当は女性は肉体も精神も強くできているのだと思う。
 20キロ歩けたから100キロ歩くのは易しいとか、50キロのタイムが10時間ぐらいだから100キロは20時間ぐらいだろうとか予想を立てても、その通りにならないのが100キロウォークだ。それぐらい100キロという距離を歩くのは、決して楽ではないのだ。それどころか苦しく辛いものだと思った方が当たっている。
 何が苦しく辛いのかというと、一つは肉刺が完歩者の殆どにできることだ。それも足の裏に一面という人もいれば、踵だとか指だとか、ありとあらゆるところにできる人もいる。私自身も去年21時間で完歩した時はひどかった。とにかく痛い。10時間過ぎた辺りから肉刺の小さいのが生まれるのだ。小さな石粒が足の裏に当たる感じから始まって、「ああ肉刺ができたな」になり、だんだん広がっていく。13時間ぐらいになると痛くなって歩くのが嫌になってくるのだ。100キロ完歩出来る人は肉刺をつぶしてまたその上に肉刺をつくるようにして、我慢に我慢を重ねて歩いている。
 次に辛いのは眠気が襲ってくること。寝ないで100キロ歩くのだから当然眠たくなってくる。睡魔が襲ってくると、とにかく横になって少し睡眠をとりたいという衝動にかられる。それでも足だけ動かしていれば先に進めるし、時間が経てば睡魔が遠のいていく。そこまで我慢しなければならない。
 次が戦意喪失。途中でリタイヤする人たちは、恐らく歩く意欲を失っていくのではないだろうか。私自身何度も経験していることだ。つまり「どうでもよくなる」ことだ。大会に参加していること自体がどうでもよくなるのだ。「やーめた」と思いたくなるのだ。 肉刺、睡魔、戦意喪失。この3つに打ち勝てば完歩できる。ただし普段歩くことをしない人が100キロ歩こうと思って参加しても無理だろう。普段から歩くことを意識して練習していないと、本番になってから歩いても30キロも歩かないうちに足が動かなくなるのが落ちである。
 前回、前々回と完歩できたが、今回は前回よりもタイムを上回ることができるかというと、なんともいえない。100キロウォークが体にいいとは思わないが何故か出たくなるのは、修行僧が荒行をやるようなものなのかもしれない。しかしそのことから私は何を得ただろうか。どんなに辛くてもやがて終わりが来る、ということかな。